オーディオの足跡

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DS-10000
 解説 

DS-10000はDIATONEが40周年を記念して発売したスピーカーです。
この機種については別でページを用意してありますが、ここではこのスピーカーについてもう少し深く掘り下げた内容を書いてみたいと思います。


DS-10000のベースにはDS-1000が採用されているのはご存知の通りかと思います。DS-3000やDS-2000ではなく、DS-1000が選ばれたのにはそれなりに理由があるようです。

当時のダイヤトーンでは、DS-1000がシステムの基本構成の上で高い可能性を持っていると考えられており、基本構成においてはもはや動かし難いクリティカルポイントまで煮詰められた完成された形で、さらにベースとなるデータも揃っていた点が大きかったようです。

また、ウーファーも30cmの方が良かったのではという話もありますが、27cm口径が3ウェイ構成であることの必然性から出たサイズで、ファンダメンタルの質の高さは大口径よりも小口径の方がいい場合が多いといった結論から決まったようです(これがDS-20000、DS-20000Bも1000系をベースにした理由かもしれません)。
さらにユニット配置についても、研究所でのコンピューター解析により音響放射パターンまで検討された結果から決められており、もはや動かしようが無いレベルまで突き詰められた形となっています。

それでは、各構成パーツについて見てみましょう。


トゥイーター
  • トゥイーターの全体図です。
    DS-1000と最も異なる特徴はボロンD.U.D振動板が、3段絞り構造となっている事です。
    サブフレームは見た目は似ていますが、DS-1000の真鍮製とは異なり、砲金の削り出し加工品を採用した細部の異なる構造となっています。これにより、さらに余韻の美しい高域再生を可能にしています。
    ボトムプレートには制振用のフェルトが貼られています。

  • トゥイーターの振動板です。
    右がDS-1000のもので、左がDS-10000のものになります。
    この特徴的な3段絞りはDS-5000で開発されたもので、振動板の剛性が上がり、高域再生限界が伸びるメリットがあります。ただ、製造技術に非常に高度なものを要求されるため、量産モデルには採用出来ませんでした。
    ちなみに、この3段絞りが採用されているのは私が知っている範囲ではDS-10000とDS-5000のみで、同じ限定モデルでもDS-20000やDS-20000Bにも採用されていません。

  • 砲金製フレームにはコルク材がはられ、フレーム部の不要幅射によるSN比の劣化を防いでいます。


ミッドレンジ
  • ミッドレンジユニットの全体図です。
    バックカバーは共振モードが一箇所に集中しないように構造的に分散させるため、手絞り(ヘラ絞りという方法)で成形されています。また、取り付けビスの数もDS-1000の4本から8本に変更されています。
    ちなみに、この後発売されたDS-1000HRでは同様に8本で固定されています。

  • S-10000とDS-1000のサブフレームとバックカバーです。
    素材の違いや作り方だけでなく、細かい部分で構造が異なっています。


ウーファー
  • ウーファーユニットの全体図です。
    見た目は他のDS-1000シリーズと大差ないですがアラミッドハニカムコーンは1つ1つが手造りでプレスされており、微妙なカーブが特徴です。

  • コーン部の写真。この状態でコーンの上に大人が乗っても壊れないほど強度があるそうです。
    素材はDS-1000のポリアミドからDS-10000ではアラミッド(ケブラー)に変更されています。
    なお、アラミッドのハニカムは人工衛星のアンテナなどに使用されていました。

  • マグネット部、
    左のマグネットを右のフレームに組込み、固定しています。


ネットワーク
  • ネットワーク。
    各ユニットごとに分割されてスプルース材の基板に取り付けられています。また、各ユニットへの適正な電流供給のため入力端子から放射状に配電するラジアル供給方式を採用しています。
    線材はLC-OFC、圧着スリーブには金メッキが施されています。
    ちなみに、この後発売されたDS-1000HRと非常に似たネットワークとなっていますが、トゥイーター用のコンデンサが違うようです。


エンクロージャー

各ユニットについても非常に拘った処理が見られますが、特にエンクロージャーには拘りがあったようで、一見では同じ1000系をピアノ塗装にしただけに見えますが、限定機種らしく非常に手の込んだ構造となっています。


  • ユニット取り付けビスを取り付ける鬼目ナットには、無酸素銅のワッシャーをはさんで バッフル板に打ち込まれています。
    また、優れたSN比を実現するために、取り付けネジにはゴムキャップが取り付けられており、徹底して鳴きを抑えています。
    一般的なシステムではフレームやビス「鳴き」も音づくりの一環として利用したりしていたそうです。

  • バッフル板の裏面。
    バッフル板はシトカスプルースのランバーコア製です。

  • 吸音材。
    側板面には羊毛フェルトが全面に貼られ、ウール100%の吸音材が充填されています。
    一般に使われているグラスウールでは吸音材が発するヒスノイズがスピーカー自体の音を汚してしまうらしく、この素材が選ばれたようです。

  • 左はエンクロージャーの構成部材の違いがわかるカット写真です。
    側板は硬質チップボードをシナ材の多層ラミネートで挟んだもので、バッフルはシトカスプルースのランバーコア材を使用しており、局面部とバッフルの取り付け構造材には、グランドピアノなどに使われるニューギニア産のマトアのムク材が使用されているそうです。
    全ての素材は、ひとつひとつ吟味されて本当に厳選されて使用されています。
    また、右の写真はバッフル面の組構造がわかるカット写真です。
    側板とバッフルはマトア材の取り付け部材を使ってホゾ組されています。バッフル面の補強棧はスプルース製です。


ここからは、雑誌などで掲載された開発時の資料について見てみます。

開発時の資料
  • 初期段階のエンクロージャー。
    わかりにくいですが、内部の補強材などの構造がだいぶ違ういます。

  • 最終仕様のエンクロージャー。
    補強桟はダイヤトーン独自の分散共振構造に基づいて配置されているため、各部材は結合されることなく、独立して各面に取り付けられています。

  • 塗装仕上げがされていないエンクロージャー。
    素材が吟味されて使用されています。
    バッフル材と裏板は共振モードを分散させるためランバーコア材の方向を変えるなどの配慮がされています。

  • 耐候試験やモーダル解析に使用されたエンクロージャー達です。
    細かく見ていくと変更の跡などがわかり、とても面白いです。


最後にスタンドを見てみましょう。

スタンド
  • スピーカースタンドの開発過程で最終段階まで残っていたスタンドです。
    これはグランドピアノをイメージして作られたもので、特長的な足の形をしており、音質的に捨て難いものがあったようですが、販売はされませんでした。


最後に

DS-10000は、40周年を記念して作られただけあって量産性がある程度考慮された4桁シリーズとは異なり、ピアノなどの楽器を意識してエンクロージャーの素材や組合せに拘ったもので、限定でなければ作りだせない贅沢さを持っています。