KENWOOD KX-880D
¥69,800(1986年頃)
解説
独自の定電流駆動方式であるSuperTLLEに加えて新開発のDBSを搭載したカセットデッキ。
ヘッド部にはアモルファスヘッドを採用しています。
このヘッドは優れた特性をもつアモルファスアロイを45μの極薄板にし、13枚ラミネートしてヘッドコアを構成しています。これにより渦電流が少なく高域レンジの伸びた広い周波数特性を実現しています。さらに巻線に無酸素銅を使用することで伝送特性を改善し、よりピュアな音を実現しています。
さらにKX-880Dには磁気飽和の少ない大型アモルファスヘッドを採用しており、コアが大きいため強力な磁界を発生できると同時にテープのヘッドタッチを改善しています。
ケンウッド独自の定電流駆動方式であるSuper TLLE(ツインループ・リニアエキサイター)を採用しています。
この方式ではヘッド駆動用と利得制御用の2つのループをもち、±2電源で録音ヘッドとDC直結した構成を採用しています。これにより高域における電流伝達ロスがなく高品位で厚みのある高音が録音できます。また、出力抵抗を追放したことで従来方式に比べて録音アンプのダイナミックレンジが12dB~13dB(400Hz)改善しています。さらにヘッド駆動電流がヘッドのインピーダンス変化に依存しないため、位相劣化が起きず負荷変動に起因する電流ひずみを抑圧でき、録音ヘッドとDC直結となっているため超低域までフラットな録音を可能としています。
新開発のDBS(ダイナミック・バイアス・システム)を搭載しています。
これまで高域の記録能力は磁気回路のコア材で発生する渦電流によるロスや磁気材の電流損失、テープが走行することによってヘッドが自分で記録しながら消してしまう自己減磁などの原因によって劣化されていました。これにより0dBのハイレベルで録音すると高域特性が1kHzぐらいから急激に落ちてしまい、録音レベルを10dB、20dB下げて周波数特性を伸ばそうとするとSN比が劣化するという相反する現象が起きていました。
この問題を解消するため、ケンウッドでは高域周波数成分が録音バイアスを深める働きをすることに注目し、高域・大振幅信号が入った時にバイアス電流を減らしてMOL(最大磁束密度)を上げると同時に自己減磁されることを防ぐ独特な方法を追加して高域MOL特性を大幅に改善しています。さらにバイアス電流を減らす回路にフィードバックループを使っていないため時定数を持たず、アタック音などの瞬間的な大入力信号にもシャープに追随してキレの良い高音域を実現しています。
メカニズム部には高剛性サイレントメカニズムを採用しています。
このメカニズムは振動モードを多角的に解析して開発されたもので、KX-880Dではさらに徹底追及されています。まずメカニズム本体をシンプル化することでカセットを固定するガイドに金属シャフトを採用するなどの他に、ヘッドを据え付けるヘッドベースにより剛性の高い金属を使用するなどによって完成度を高めています。
これによりモーターなどで発生するメカニズム自体の内乱や筐体を伝わる外乱を極限まで抑え、テープの安定したヘッドタッチを実現しています。
駆動モーターには新開発の低トルクリップルモーターを採用しています。
モーターのトルク変動は不安定なテープ走行の原因となり、ワウフラッターを劣化させていました。KX-880Dで採用されたモーターはコンピューター解析を行ってトルク変動を従来の1/2に抑えています。
また、モーター駆動回路も新開発のものとなっており、アースを明確化したモーター駆動回路によってモーターが回転することで発生するノイズ成分を除去し、中低域の音の迫力を高めています。
バイアスキャリブレーションとレックキャリブレーションを搭載しています。テープごとに調整することであらゆるテープを最適な条件で使う事が可能です。
録音回路、再生回路、ドルビーB/C回路の全てにオペアンプ形式の±電源回路を採用しており、アースのゼロ電位を明確化することでクリアな音を実現しています。
さらに電源部は±3系統の定電圧電源を用いて各部間の干渉を排除しています。とくに録音回路に電源リップルが乗らないため、優れた音像定位が得られています。
ノイズリダクションシステムとしてドルビーB/Cタイプを搭載しています。
ドルビー回路には専用の新ICと新回路を採用しており、動特性を改善しています。
左右独立プリセットボリュームとマスターボリュームを搭載しています。
これにより録音レベルを左右独立してセットでき、左右のレベル調整後はマスターボリュームで左右連動で録音レベルの調整が可能です。
応答速度の速いNew DPSS(ダイレクト・プログラムサーチ・システム)を搭載しています。
この機能では、前後1曲の頭出しや希望曲の頭出しなどの選曲機能や、1曲リピート/ワンサイドリピートなどの繰返し演奏機能、録音開始後に再録音したくなった時にその曲の頭まで巻戻してレックポーズ状態になるリレック・スタンバイ、途中で終わっているテープを巻戻してテープの頭から演奏始めるリワインドプレイ、カウンターをリセットにした位置まで自動的に巻き戻すゼロストップ、インデックススキャン、ブランクサーチ、オートレックミュートなどの多彩な機能が行えます。
4桁リニアカウンターはDPSS表示計と残量表示計として切り換わる多機能表示となっています。
-36dBから+12dBまで表示するワイドレンジ16ポイントFLピークホールドレベルメーターを搭載しています。
テープ走行料とテープ残量がわかるリニアテープカウンターを搭載しています。
マイコンで時間検出する高精度4桁デジタルテープカウンターとなっています。また、ブランクサーチ機能によって残量計として動作し、DPSS操作時は曲数表示としても働きます。
FLディスプレイを搭載しています。
電源部の電解コンデンサーの容量を従来機より倍増させています。
オートテープセレクターを搭載しています。
MPXフィルターを搭載しています。
ヘッドホンレベルボリュームを搭載しています。
機種の定格
型式 | ステレオカセットデッキ |
トラック形式 | ステレオ |
録音方式 | 交流バイアス(105kHz) |
ヘッド | 録音・再生:アモルファスアロイヘッド 消去:ダブルギャップフェライトヘッド |
モーター | キャプスタン駆動:FGサーボDDモーター リール駆動:DCモーター メカ駆動:DCモーターx2 |
ワウ・フラッター | ±0.054%(EIAJ) 0.027%(WRMS) |
早巻時間 | 約70秒(C-60テープ) |
周波数特性 | ノーマルテープ:20Hz~18kHz ±3dB クロームテープ:20Hz~19kHz ±3dB メタルテープ:20Hz~22kHz ±3dB |
歪率 | メタルテープ:0.8%(1kHz、3次高調波歪率) |
SN比 | EIAJ メタルテープ:57dB Dolby C on:74dB Dolby B on:67dB Dolby NR off:59dB |
入力端子 | ライン:77.5mV/50kΩ |
出力端子 | ライン:490mv/3kΩ ヘッドホン:0.85mW/8Ω |
電源 | AC100V、50Hz/60Hz |
消費電力 | 24W(電気用品取締法) |
外形寸法 | 幅440x高さ115.5x奥行322mm |
重量 | 5.9kg |