Pioneer TX-910
¥75,000(1973年頃)
解説
MPX部にPLL回路を導入したFM/AMチューナー。
FMフロントエンドには、RF増幅2段とミキサー段にデュアルゲートMOS FETを採用しています。
デュアルゲートMOS FETは特に雑音指数の低いものを使用したため実用感度が向上させており、また5連バリコンを使った同調回路によって混信排除能力が向上しています。
TX-910の局部発振回路には、特にバッファー回路が設けられており、電界強度の高い局が隣接している場合も、バッファー回路の働きにより引きこみ現象などが発生するのを防いでいます。
IF部には、従来のトランジスタにかわってモノリシックICを採用しています。回路は差動1段のIC3個と差動3段のIC1個から構成され、高い安定性とリミッターを得ています。
さらに広帯域のレシオ検波とあいまって諸特性を向上しています。
フィルター素子には位相歪が少なく、シャープな選択度特性が得られるセラミックフィルター(2素子もの4個)によって構成しています。
これにより通過帯域内での広い範囲で歪が少なく、MPXセパレーションを向上しています。
MPX部にはPLL回路を導入しています。
PLL回路により得られるMPX復調信号は、パイロット信号と位相が常に一致している方形波なので、ダブルバランス型差動復調回路に通すと、復調信号のもれは打ち消されて出力側にほとんど現れず、リークキャリアはそのままでも少ない値になっており、復調の際に生ずる歪を最小に抑えています。
また、SCAビート妨害がないのでSCAフィルターを省略でき、それによって高域のセパレーションが大幅に改善しています。
また、PLLから派生した19kHzの一部を利用してもう一つの位相比較器に導き、ここでパイロット信号の大小を検出して受信している放送がステレオの時だけ、38kHzの復調信号を復調回路に導き入れ、モノの場合とステレオ放送が実用にならないほど弱い場合、回路をモノに自動切換し、それと同時にインジケーターを点滅させるようになっています。
使用されているIC PA-1310はPLL回路とダブルバランス型差動復調回路、インジケーター回路、自動切換えなどの付属回路が全て内蔵されています。
パイロット信号19kHzやMPX復調の際のキャリアリーク38kHzをカットするローパスフィルターを搭載しており、FM録音時のビート妨害や混変調といった悪影響を追放しています。
ミューティング回路は動作レベルを2段階に切換え可能となっています。
1段目は選局時の局間ノイズをカットするのが目的で、2段目は強い局のみを受信するときに使用します。
正確なミューティング動作を行うため、MOS ICとミューティング専用に開発されたICを採用しており、さらにリードリレーを組合わせたダブルアクションでポップノイズを押さえています。
自動車やオートバイなどから発生する妨害電波によるパルス性の雑音をカットするパルスノイズサプレッサーを搭載しています。
リミッターが十分働かない弱い局を受けている時に入るAM成分の雑音と、リミッター回路では取り除けないFM成分の雑音を検出して、いずれの場合でも動作する方式のため、電界強度や雑音の種類の広い範囲にわたって有効に働きます。
AGC回路によってリニアリティが改善したシグナルメーターを搭載しており、強電界地域でも飽和しないようになっています。
AMチューナー部では、AMセクションにも周波数直線型のバリコンを採用することで選局しやすくするとともに、さらに3連バリコンによる同調型RF1段増幅を採用して妨害排除能力を高めています。
また、高集積度ICを採用することで安定性と信頼性の向上を計っています。各増幅段には十分なAGCをほどこし、検波出力を一定に保ち、強入力時の飽和による歪の発生を抑えています。
ミキサー段は平衡型ミキサーの採用でスプリアス特性を改善しています。
出力端子は固定と可変の2系統を搭載しています。
可変端子を出力レベルは、FMとAMでそれぞれ独立して調整が可能です。
ヘッドホン用アンプとして、ダーリントン接続のOTLアンプを採用しています。
ボリュームはフロントパネルでコントロールが可能です。
マルチパス端子を搭載しており、ステレオディスプレイSD-100かオシロスコープを接続することで、アンテナ方向の最良点が簡単に求められます。
機種の定格
型式 | AM/FMステレオチューナー |
<FMチューナー部> | |
回路方式 | MOS FET RF2段、5連バリコン差動6段リミッター PLL MPXデモジュレーター |
実用感度(IHF) | 1.5μV |
キャプチャーレシオ(IHF) | 1dB |
実効選択度(IHF) | 90dB |
S/N比 | 75dB |
イメージ妨害比(82MHz) | 110dB以上 |
IF妨害比(82MHz) | 110dB以上 |
スプリアス妨害比 | 110dB以上 |
AM抑圧比 | 65dB |
高調波歪率 | mono:0.2%以下 stereo:0.3%以下 |
周波数特性(stereo) | 20Hz~15kHz +0.2 -2.0dB 50Hz~10kHz +0.2 -0.5dB |
ステレオセパレーション | 1kHz:40dB以上 50Hz~10kHz:30dB以上 |
キャリアリーク抑圧比 | 65dB |
アンテナ | 300Ω平衡型 75Ω不平衡型 |
ミューティング | 2段レベル切換 |
MPXノイズフィルター | ON-OFF |
<AMチューナー部> | |
回路方式 | 同調型RF1段3連バリコン |
実用感度(IHF、バーアンテナ) | 300μV/m |
実用感度(IHF) | 15μV |
選択度 | 40dB |
S/N比 | 50dB |
イメージ妨害比 | 65dB以上 |
IF妨害比 | 85dB以上 |
アンテナ | フェライトバーアンテナ付属 |
<総合> | |
出力レベル/インピーダンス | Fixed:650mV/4.7kΩ Variable:70mV~2V/300Ω Headphone:150mV(8Ω) |
使用半導体 | トランジスタ:33個 FET:6個 IC:8個 ダイオード他:21個 |
電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz |
電源コンセント | 電源スイッチ非連動:1系統 |
消費電力 | 30W |
外形寸法 | 幅430x高さ138x奥行345mm |
重量 | 8.9kg |