Pioneer CT-A1
¥230,000(1980年頃)
解説
Auto BLEシステムや世界初のリボンセンダストヘッドを採用した3ヘッド方式などにより、全てに最高級を目指したステレオカセットデッキ。
ヘッドには世界で初めて開発に成功したリボンセンダストによる録音/再生コンビネーションヘッドと特殊合金による消去ヘッドを設けた3ヘッド方式を採用しています。
リボンセンダストヘッドの製法は、溶融状態のセンタストを適切な条件のもとでノズルより噴出させ、直接ロールを通して伸ばす超急冷法となっています。これにより従来の技術では0.2mm~0.3mmが限度とされていたセンダストを一挙に50μの薄帯にすることに成功しています。しかもこのリボンセンダストを11枚のラミネート構造に成型し、過電流の発生を抑える事で、高域の劣化を著しく改善し、優れた高域特性を実現しています。
また、このリボンセンダストヘッドは、センダスト自体が持つ透磁率の高さを生かした高SN比、広ダイナミックレンジ設計となっており、さらにバイアス効率も従来のセンダストヘッドに比べて約2倍もよくなっています。
再生ヘッドは高域での周波数特性、感度の良さを両立させるためギャップ幅を0.8μに設定しており、リボンセンダストの特性を生かし、感度を犠牲にすることなくナローギャップの成型に成功しています。
また録音ヘッドは、録音時の周波数特性、感度を最大限に引出すために2.5μのギャップ値を設定し、飽和磁束密度が大きく、感度が高いというメリットを生かして音のクオリティを向上させています。
リボンセンダストヘッドでは漏洩磁界に対するシールド効果を十分に考慮し、左右両チャンネルが隣接するコアスペーサーとして、静電シールド効果の高い非磁性高電導材料と、磁気シールド効果が優れたパーマロイによるシールド板を採用しており、二重シールドによって音質を高めています。
さらに両チャンネル間は適度な振り分け角度を持たせた構造となっており、精度の高いコア加工技術とギャップを深くとることによって、チャンネルセパレーションを優れたものにしています。
消去ヘッドでは、飽和磁束密度が高く耐摩耗性に優れた特殊合金を開発し、フロントコアにセミダブルギャップ構造で使用しています。さらにフェライトのバックコアと複合化することで、小型かつ高性能な消去ヘッドを実現しています。
また、この特殊合金によるフロントコアは0.1mmの薄板21枚でラミネート加工しているため、渦電流損失による温度上昇が少なく、76dB以上(1kHz、メタルテープ)という高い消去性能を得ています。
マイクロプロセッサーの6ビット演算処理によって使用するテープにあった録音バイアス・録音レベル・録音イコライザーを自動的に検出し、高精度に設定する新開発のAutoBLEシステム(Automatic Bias Level Equalizer Tuning System)を採用しています。
録音バイアスの調整では、どのポジションのテープを使用した場合でも、テープの感度が高く歪が少なくなるバイアス電流量を選び出し最適値に設定します。
録音レベル(テープ感度)調整では、録音レベルを変化させ、録音・再生レベルが同一になるようにコントロールし、ドルビーシステム動作時でもエンコード・でコードのカーブが対称となるよう最適値を設定します。
録音イコライザー調整では、各種テープの高域特性を自動的に検出し、録音イコライザーを変化させて全帯域がフラットになるよう最適値に設定します。
AutoBLEシステムにはメモリー機能を搭載しており、バイアス・レベル・イコライザーの調整値を9種類までメモリーさせ、必要な時に呼び出すことが可能です。さらにテープセレクターのミスポジションや不良テープの検出も行い、エラー表示で警告します。
バイアス・レベル・イコライザーの調整と、それにともなう各種のコントロールを、パイオニアが開発したマイクロプロセッサー(PD-4005)を使用したAutoBLEユニットで6ビット演算処理をしています。
プロセスは、AutoBLEキーを押すと、まずAutoBLEユニットからメカニズム制御回路へ録音状態になるよう指令が送られます。そして1kHzの発振信号が選択され、その信号は録音アンプを経て録音ヘッドに供給されます。同時に録音バイアスもバイアス可変回路を経て1kHzの発振信号と重畳されて録音ヘッドに供給されます。こうして録音されたテスト信号は再生ヘッドで取り出され、AutoBLEユニットの整流回路に供給され、録音・再生ループを作ります。
自動調整はまずバイアスの設定から開始されます。これは1kHzのテスト信号を録音しながらバイアス電流を64ステップで可変させ、その再生レベルの中から±0.2dBの高精度で最適なピークバイアス量を検出する方式で、AutoBLEユニットの整流回路に与えられた再生信号をDC電圧になおし、その電圧をさらにデジタル量に変換することでマイクロプロセッサーが再生レベルの最大値を判別しています。このピークバイアス値はLch、Rchともに2度繰返して検出し、その平均値を求めているので、片chだけや1回だけのピークバイアス値で判別する方式に比べて、高い信頼性を実現しています。
バイアス量が設定されると、次に最適録音レベルの調整が開始されます。この時もテスト信号は1Hzが使われ、録音電流を64ステップで細かく変化させながら両chの再生出力レベルが0dBの規定レベルとなるよう設定します。
録音イコライザー調整時にはマイクロプロセッサーが10kHzのテスト信号を選択し、録音イコライザーの補償量を64ステップで変化させ、周波数特性をフラットにさせます。
これらの調整が全て終了すると、マイクロプロセッサーの動作指令により調整開始前のところまで自動的にテープを巻き戻し、録音スタンバイ状態に入ります。
AutoBLEシステムの調整状態は3個のLEDで、録音バイアス、録音レベル、録音イコライザーのそれぞれが表示されます。調整中はLEDが点滅し、調整が終了すると点灯し続けるように設計されています。
またテープセレクターのミスポジションなどによるエラー表示は3つのLEDが同時に点滅して警告します。
メモリー用バックアップバッテリーを内蔵しており、電源off時や停電時、コンセントを抜いた時、留守録音時にもマイクロプロセッサーの記憶を維持させます。
キャプスタンモーターにクォーツPLL D.D>コアレスモーターを採用しており、ローターに取り付けられたマグネット(6極)とステーター(9コイル)を平面的に対向させた構造で、起動トルク180g-cmというハイトルクを実現しています。
また、回転子に鉄芯を用いないパーマネントマグネットによるDCモーターなため磁気ムラがなく、コギングやトルクリップルによる微振動がなく、聴感上特に有害なフラッター成分を大幅に減少させています。しかもモーターの回転がそのままキャプスタンの回転となるダイレクトドライブ方式を採用しており、伝達機構を介してキャプスタンを駆動させる方式と異なり、コアレスモーターの性能がそのまま安定したテープ走行となっています。
さらにキャプスタンは直径3mmの太軸タイプを採用しており、同じダイレクトドライブ方式でもモーターの回転数を一段と低速化させることができるため、モーターシャフトの振れなどによる回転ムラや微振動を抑制し、機械的な耐久性も大幅に向上させています。
サーボ機構には±0.004%以下という高精度な水晶発振器の基準信号を応用してサンプル&ホールドするクォーツPLLを採用しています。
また、モーター自身の速度検出機構には、精度の高い全周積分方式を採用してます。これはキャプスタンモーターのローターの裏面全周に取り付けられた60極のマグネットとこれに対向した同極数の低インピーダンスプリントパターンコイルによって交流信号を発生させ、これをさらに全周で積分する方式で、これによりクォーツPLLの精度をさらにゆるぎないものにすると同時にローノイズ化も達成しています。
さらにモーターの磁極切換えはパイオニアが独自に開発したホール素子による無接触のスイッチング機構を採用し、静かでなめらかな回転を実現しています。
再生時のピッチを±6%可変できるピッチコントロール機構を搭載しています(録音時はオートキャンセル)
クォーツPLL D.D.キャプスタンモーターの駆動力を伝達ベルトを介してサブキャプスタン駆動用フライホイールに供給し、2個のキャプスタンでテープを走行させるクローズドループデュアルキャプスタン方式を採用しています。
テープ走行中に発生するテープ振動による変調雑音をループ内から遮断し、クォリティの高い録音・再生を実現しています。
さらにサブキャプスタン側の回転数をD.D.キャプスタンの回転数に比べてわずかに遅くし、ループ内に絶えず均一なテープテンションがかかる設計とすることで、巻き始めから巻き終りまで常に良好なヘッドタッチが得られ、レベル変動やドロップアウトを未然に防ぐだけでなく、AutoBLEの信頼度を向上させています。
さらに、左右のピンチローラーの直径を変えることにより、ワウフラッターのピーク成分を分散させるなど高忠実度再生を目指す配慮がされています。
リール駆動専用モーターには、トルクリップルやコギングの少ないハイトルクコアレスモーターを採用しており、高速巻上げ時でもテープの巻きムラが少なくなっています。
カセットテープ装着時に自動的にテープのたるみを除去するATLC機構を採用しています。
新開発の改良型リール軸を採用しており、カセットテープのハブとの接合度が高くテープテンションの小刻みな変動を防止します。
DC±2電源駆動の回路構成を採用しており、再生イコライザーアンプ・フラットアンプともに初段はスーパーローノイズPNPトランジスタ採用の差動アンプ構成とし、イコライザーアンプの終段をPNP・NPNによるプッシュプル・コンプリメンタリー構成とすることにより広ダイナミックレンジとローノイズ化を達成しています。
録音アンプには初段差動、終段純コンプリメンタリーを採用しており、基準レベルから25dB(1kHz)のダイナミックマージンをもつ録音アンプになっています。
バイアスアンプは電圧安定化回路を採用した発振部とバイアス供給用の出力アンプ部をそれぞれ独立させ、バイアス発振器と出力アンプの間でバイアス量を変化させ、微調整を行う安定した回路構成としています。
さらにこのバイアス供給アンプの3段目は、PNP・NPNトランジスタによるコンプリメンタリー出力として、出力インピーダンスを低減し、録音ヘッドにおけるバイアスの定電流駆動を実現しています。
こうして裸特性を高めた上でNFBをかけ、大幅な歪率の低減を実現するとともに、温度・時間に対するバイアスのドリフト特性をも大きく向上させています。
マイクロプロセッサー応用の2色FLレベルメーターを採用しています。
レベル表示は片チャンネルあたり24セグメントを使用し、-30dB~+8dBをカバーする設計となっており、0dB未満はブルー、0dB以上はオレンジに点灯指示します。
さらにこのFLメーターはプログラムソースに応じて応答特性をアベレージ、ピーク、ピークホールドの3段に切換えて使い分けることが可能です。
メモリーストップ、メモリープレイ、カウンターリピート、エンドリピートなどのテーププレイが可能な電子化メモリー機能を搭載しています。
ICロジック回路の制御による純電子式操作ボタンを採用しています。
MPXフィルター解除スイッチやドルビーシステム、Recミュート機構、タイマースタンバイ機構、バイアス微調整ボリューム、モニタースイッチなどを搭載しています。
カセットハーフを確実にホールドし、着脱もスムースに行えるフルオープンローディング方式を採用しています。
マイクとラインのミキシングが可能です。
アウトプットボリュームを搭載してます。
機種の定格
型式 | コンパクトカセットテープデッキ | ||||||||
ヘッド | 録音ヘッド:リボンセンダストヘッド 再生ヘッド:リボンセンダストヘッド 消去ヘッド:特殊合金ヘッド |
||||||||
モーター | 定速ドライブ用:クォーツPLLダイレクトドライブ方式コアレスキャプスタンモーター リールドライブ用:ハイトルクコアレスモーター |
||||||||
早巻き時間 | 75秒以下(C-60) | ||||||||
回転ムラ | 0.03%以下(WRMS) | ||||||||
周波数特性 |
|
||||||||
SN比(第3次高調波歪率3%、 聴感補正) |
Dolby off:60dB以上 Dolby on:70dB以上(5kHz以上) |
||||||||
歪率 | 1.0%以下(0dB) | ||||||||
入力感度/最大許容入力 /インピーダンス |
ライン:65mV/15V/100kΩ、ピンジャック マイク:0.3mV/100mV/10kΩ、6mm径ジャック (適合マイクインピーダンス:250Ω~10kΩ) |
||||||||
基準出力レベル/最大レベル /インピーダンス |
ライン:450mV/640mV/50kΩ、ピンジャック ヘッドホン:63mV/90mV/8Ω、6mm径ステレオジャック |
||||||||
使用半導体 | IC:42 トランジスタ:194 ダイオード:124(ツェナーダイオード:16、LED:19) フォトインタラプター:1 |
||||||||
電源電圧 | AC100V、50Hz/60Hz | ||||||||
消費電力 | 45W | ||||||||
外形寸法 | 幅420x高さ217x奥行390mm | ||||||||
重量 | 18kg |